泌尿器科で治療する癌・概説



 泌尿器系の癌には、代表的なものとして腎臓癌、腎盂・尿管癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍があり、このほか比較的稀なものでは副腎腫瘍や陰茎癌があります。

 これらの癌は日本人に多い胃癌や肺癌、あるいは乳癌や子宮癌などに比べあまりなじみがない方が多いかもしれませんが、実はアメリカでは男性の全癌患者の25%を泌尿器系の癌が占めているのです。これは主にアメリカ人に前立腺癌が多いためですが、日本でも近年食生活や生活様式が欧米化したためか、最近泌尿器系のがんは前立腺癌を中心に増加しています。
<泌尿器科癌の頻度 >      米 国          日本
              全癌患者  全癌死亡     全癌死
       男性     25%    15%        6%
       女性      4%      3%      2%  



腎臓癌:早期発見には超音波検査を

 腎臓の実質に腫瘤をつくる腎細胞がんが多く、一般に「腎癌」といった場合はこの腎細胞癌を指します。このほか腎盂から出る腎盂癌や尿管癌もありますが、これらはむしろ次に述べる膀胱癌に近い性格のものです。
 腎細胞癌は早期には特に症状がなく、血尿や腹痛が発見のきっかけとなることがほとんどであった昔は早期発見が難しかったのですが、最近は超音波検査やCT検査の普及により無症状のうちに人間ドックや内科の検診などで発見される症例が増えました。
 腎臓は左右2つあるので、転移が無く反対側の機能が良ければ患側の腎臓を摘出する手術により根治することができます。早期にみつかって手術をすれば良好な結果が得られます。また転移がある進行がんの場合でも免疫療法剤であるインターフェロンの有効性が最近期待されており、インターフェロンの他に抗癌剤、手術療法、さらに放射線療法などを病状や体力などにより的確に組み合わせることにより治療を行っていきます。



膀胱癌:肉眼的血尿に注意

 膀胱癌の初発症状としては痛みが無いのに尿が赤くなる無症候性の肉眼的血尿が重要です。腹痛や排尿痛などを伴う血尿はむしろ膀胱炎や尿路結石などの場合が多いのです。なお肉眼的に正常でも健康診断で尿潜血(顕微鏡的血尿)が指摘されることがあります。顕微鏡的血尿は検査の結果によってはあまり心配のない場合も多いのですが、時に何らかの腎臓病や癌・結石などがみつかることがありますので、尿潜血を指摘されたら一度専門医の診察を受けてください。

 膀胱癌には膀胱粘膜の表面にでき悪性度の比較的低い表在性膀胱癌と、悪性度が高く浸潤転移を起こしやすい浸潤性膀胱癌があります。
 表在性膀胱癌はお腹を切らずに内視鏡手術(経尿道的切除術)により治療が可能ですが、膀胱内に再発しやすく治療後も定期的な内視鏡検査が大事です。この膀胱内再発を予防するために膀胱内に薬を注入する治療も行われ、最近従来の抗癌剤注入の他、BCG注入療法が保険適用になり効果が期待されています。このように表在性膀胱癌はできるだけ膀胱を温存することが治療の原則ですが、時に浸潤性膀胱がんへ進展をきたすことがあり慎重な経過観察とその前兆の早期発見が重要です。
 浸潤性膀胱癌の場合は根治を目的に膀胱を摘出する手術を行います。膀胱をとると尿路変更といってお腹に穴(ストーマ)をあけ集尿袋をつけることになる場合が多いのですが、この尿路変更の方法には尿管皮膚瘻や回腸導管法の他、最近は畜尿能力のある代用膀胱を再建する手術も普及してきました。また進行した膀胱がんには有力な抗がん剤が出現し化学療法もかなり効くようになったほか、放射線療法も有効で、これらの手術・化学療法・放射線療法を組み合わせた集学的治療を行います。



前立腺癌:気軽に前立腺検診を

 前立腺癌が最近増えている理由はまだわかっていません。欧米人に多く日本人には比較的少なくハワイ日系人はその中間であることから、人種的要因と食事など環境要因の両方が関係しているようです。
 前立腺癌の症状は排尿障害が多いようですが、診断上前立腺肥大症との鑑別が大事です。肥大症と癌は全く別の病気で、肥大症が癌に進行することはありませんが、偶然合併することはあるので注意が必要です。実際には前立腺癌は初期には無症状の場合も多く、最近増加しているにもかかわらず社会的には検診体制などの対策はまだ整っていません。最近PSAという鋭敏な腫瘍マーカーが開発され、直腸指診との組み合わせで早期発見が可能となっていますので、50歳以上の男性で気になる方は気軽に泌尿器科への受診をお勧めします。

 前立腺は男性の生殖器官のため前立腺癌は男性ホルモンに依存することが特徴で、精巣を摘除したり男性ホルモンを遮断する薬剤を用いる内分泌療法を行うとがんは著明に縮小します。非常によく効くので以前はほとんどの患者さんに内分泌療法を行っていましたが、一方で薬剤の副作用や内分泌療法が効かなくなったときの対策など問題点や課題も多くありました。最近の治療方針は、転移のない比較的若い患者さんには根治手術(前立腺全摘術)を、また転移はないが年齢が70歳以上の方には根治的放射線療法を行って完治をめざすほか、高齢者や転移のある場合には内分泌療法を主体に行い、一方非常に早期の微小がんはむしろ無治療で経過観察とするなど、進行度や年齢などによりきめ細かに治療法を使い分けるようになりました。また女性ホルモン剤の長期服用による血栓症など内分泌療法の副作用も問題でしたが、精巣を取らずにすみ、かつ副作用の少ない新薬が最近開発され、保険適応となりました。内分泌療法が効かなくなったホルモン療法不応性前立腺癌の治療も大きな課題とされていますが、最近いろいろな治療の試みが効果をあげつつあります。



精巣腫瘍:無痛性の腫脹に注意/化学療法が非常に有効!

 男性の性腺(精巣)に発生する癌で、胚細胞性腫瘍というちょっと変わった組織型と性質をもっています。比較的稀な病気なのですが、他の癌が高齢者に多いのに比べ20歳〜30歳台の社会的活動性の高い男性が突然侵されることから早期診断治療の社会的意義は高いと考えられています。症状は全く痛みがないのに陰嚢の内容である精巣(睾丸)がはれて大きくなることが特徴です(痛みを伴うはれはむしろ精巣上体炎などの炎症のことが多い)。このため体外から触れやすい場所にもかかわらず気恥ずかしいこともあって専門医への受診が遅れてしまうケースが多いのは残念です。しかし幸い近年治療法が劇的に進歩し、たとえ肺やリンパ腺に転移した進行癌でも抗癌剤による化学療法を中心に手術などを的確に組み合わせた集学的治療により、多くの患者さんが完治するようになりました。



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