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地域医療連携講演会  腎腫瘍に対する腎部分切除術  (時代は、腎パーシャル手術)

小径腎細胞癌の治療—時代はパーシャル

原林 透 北海道がんセンター

 泌尿器科医長 腎臓から発生する腎癌(腎細胞癌)は罹患率と死亡率が上昇している癌のひとつです。発生の危険因子として、肥満、高血圧、喫煙があげられ、2002年の調査では、北海道は全国でも最も罹患率の高い地域と報告されています。

 

 

従来、腎癌は、腹部腫瘤、疼痛、血尿などの症状がでて初めて診断にいたることが多く、大きく進行した状態で発見され、一側腎と周囲脂肪、隣接する副腎、リンパ節を一塊として摘出する根治的腎全摘除術が行われていました。がんを手術する場合、ひとまわり大きく周囲組織をつけて摘出するという方法は1900年台半ばに確立した考え方です。特に腎臓のように2つある臓器では、ひとつを失っても大きな機能的損失がないことから、単腎のような特殊な状況でない限り、部分切除術という方法はとられませんでした。

 近年は、人間ドックその他での超音波検査、CT検査の普及により、小さいサイズで自覚症状のない状態で発見される(小径無症候性)腎腫瘍が増えてきました。このような小径腎腫瘍では、腎全摘除術ではなく、腫瘍だけをくり貫くように摘出し、腎皮質の大半を温存する腎腫瘍核出術、腎部分切除術(パーシャル切除)が行われるようになってきました。

 

従来の根治的腎全摘除術と腎部分切除術を対比して、それぞれの利点と欠点についてお話ししましょう。

 腎全摘除術に比べて部分切除術が劣るのは、腎臓に腫瘍が残存する可能性があること、治療が不十分である可能性があること、手術後の合併症が多いことです。一方、腎部分切除術がすぐれているのは、腎機能がより多く保持できること、腫瘍が良性の場合でも過剰手術にはならないことです。

 腎癌の診断で摘出した腎臓を細かく調べてみると2つ以上の病変(多発性)のある場合が5-30%程度あります。このような癌で部分切除を行うと後に局所再発がみられることになります。しかしながら、実際に部分切除術をうけた患者さんを調べてみると、局所再発が見られたのは2%程度でした。これは、部分切除術の対象となるのが小さな腎癌であり多発の危険が低いこと、小さな腎癌自体の成長速度が非常にゆっくりであり、存命中に発見されないことが考えられます。

 腎臓は血流の大変多い臓器であり、部分切除を行う場合、動脈血流を維持したままでは切除できません。腎動脈を一時遮断したうえで腫瘍部位を切除し断面を縫合閉鎖し血流を再開します。血流遮断時間が30分を超えると腎皮質細胞がダメージをうけ、腎機能が回復しなくなるため、短時間で的確迅速に切除と縫合を行う必要があります。血流遮断によるダメージを減らすために腎臓を氷で冷却することも行います。このような処置のため、切除断面の完全止血を優先できず、術中に出血で全摘除術への術式変更を必要としたり、手術後に出血や尿の漏出などの合併症が5-20%程度にみられます。その点、腎全摘除術では、腎動脈、腎静脈をしっかりと処理すれば術後の合併症は殆ど見られません。

 近年、腎機能と心血管疾患の関係が調べられ、腎機能が一定値(GFR;腎糸球体濾過率60ml/分)以下の場合、心血管疾患でなくなるリスクが高くなることが報告されました。従来、一側の腎を失っても特に問題はないとされてきましたが、すでに腎機能が低下してきている高齢者が多い腎癌患者では80%が術後低値となることがわかりました。(腎部分切除では30%程度)。癌といっても腎臓をまるごと摘出することはそれなりの障害を残すのです。

 また、小さな腎腫瘍では、CTやMRI検査をもちいても良性腫瘍と区別がつけられないことがあります。腎癌の診断で摘出してみると、10-20%が良性腫瘍と診断されます。このような場合、全摘除術は過剰ですが、部分切除術は過不足ない手術と考えられます。

 局所再発の問題はありますが、小径腎癌の5年生存率をみると、部分切除術でも全摘除術でも95%と差がないことが臨床研究でわかりました。

 以上のことから、4cm以下の小さな腎腫瘍では腎部分切除術が推奨されるようになりました。最近は、手術の技術的問題を解決できれば7cmの腫瘍や腎臓の中央に位置する腫瘍でも部分切除が行われつつあります。当院では、60%の症例で腎部分切除を行っています。2012年は全例が腹腔鏡手術でした。部分切除術は、十分確立された手術法です。腎腫瘍をみたら、まず第一に部分切除を考え、可能ならば腹腔鏡手術で低侵襲に行う、そういう時代になりました。