腎癌の臨床
1 臨床症状
腎癌の発見に至る契機はここ10年の間に大きく変化し、現在ではCT及び超音波診断の普及発達により、無症状であるいわゆる偶発腎癌が半数以上を占める。北大でも1986年までは約1/3であった偶発腎癌は、1987年より半数以上を占め現在に至っている。従って、北大症例においてもいわゆる腎癌の古典的三大症状は当然減る傾向にはあるが、非偶発腎癌におけるこれらの症状では、肉眼的血尿は約半数の症例に認められ、いまだに無視できない症状である。また、他の二症状である疼痛及び腫瘤触知は非偶発腎癌においても、いずれも10%以下である。
2 診断法
1)超音波診断(US)
この検査の普及によって、腎癌の発見率は大きく向上したといっても過言ではなく、特に嚢胞性病変との鑑別に威力を発揮する。現在では通常腫瘍径1.5cm程度までが診断可能である。
2)CT scan
腎病変の質的診断に最も優れ、特にdynamic CTは腎癌の90%前後がhypervascularであるため、微少な病変でも初期濃染像(早期動脈相)としてとらえることが可能である。現在では通常腫瘍径1cm程度までが診断可能である。
3)MRI
腎癌の質的診断という意味ではCT scanを上回るものではない。そして、CT scanに比較すると、frontal
& sagital sectionでの画像が得られるという利点と、呼吸性移動のある腎臓では小さな腫瘍に対する画像構築に工夫を要するという欠点がある。
4)IVP
腎癌の診断と言う意味では現在では殆ど役立たない。
5)血管造影
腫瘍径の小さい症例でhypervascularな病変かどうかを見る価値はある。またpartial
Nephrectomyを施行する場合の、血管構築を術前に知っておくことが出来る利点はある。腫瘍血栓等の診断は、US,MRI,CTscan
でも充分可能であり、その意味での適応は現在ではあまりない。
6)針生検
画像診断の発達した現在では、積極的な適応はあまりないと考えるが、もし施行しなければならない局面では、Tumor
seedingの可能性があるため18G以上の生検針は使用すべきではなく(18G以上では1%以下ではあるがseedingが報告されている)、20G以下の生検針を使用すべきである。
3 治療法
1)転移を有する症例に対する治療
a)転移を有する症例に対する腎摘除術の適応
全腎癌症例中発見時に既に遠隔転移を有している症例は約30%である。これらの症例に対してはたして腎摘除術を施行すべきかいなかについては、歴史的に見てもこれまでrandomized
trialが施行されたことはなく、明確な答えはない。ただNovicらは、最初に腎摘除術を施行してからBRMを用いた免疫療法を行った群(37例)と、最初にBRMを用いた免疫療法を行いPR以上の反応が得られた症例だけに腎摘除術を施行した群(腎摘除術が施行されたのは25例中PRであった僅か3例)を比較し、前者の生存期間の中央値が12ヵ月であったのに対し、後者では14ヵ月と全く差がなかったことを示している(J.Urol.,152,1399,1994)。このデータもrandomized
trialのものではないが、腎摘除術は必ずしも予後を延長しないことを示している。
b) インターフェロン(IFN)等の薬物を用いた治療
IFN-α単独で15%前後、IFN-γ単独で10-15%の奏効率を示す。そこで北大腎癌研究会では、IFN-α,γの併用効果を明らかにするため、IFN-α,γの単独投与とIFN-α,γの併用療法との比較試験(randomized
trial)を施行し、その奏効率及び予後について検討した。結果はPR以上の奏効率では、IFN-α単独が最も高く21%、IFN-γ単独で8%、IFN-α,γの併用療法は0%であった。予後(平均生存期間)では奏効率とは関係なく、IFN-α,γの併用療法が最も高く21.4ヵ月、IFN-α単独で19.4ヵ月、IFN-γ単独で15.8ヵ月と最も予後が不良であった(IFN-α,γの併用療法
VS IFN-γ単独 p=0.104)。 またこの比較試験で明らかになったのは、奏効率では無効と判定されるNC症例の平均生存期間が24ヵ月と、PD症例の9ヵ月に比較して有意に予後が延長していたことである(p<0.0001)。これは、最近主に消化器癌等で根治が不可能な癌に対する新しい治療の考え方として注目されているTumor
Dormancy Therapyに通ずる考え方(腫瘍の縮小はないが長期間のNC状態を保つ)で、癌と共存しながら予後を延長させる治療として、腎癌に対するIFN治療におけるNC症例の評価を考え直す必要があることを示す結果である。
また1997年のASCOでCanadaのグループから、転移を有する腎癌に対して、IFN-γ単独群とPlacebo群とのrandomized,placebo-controlled,double
blind trialが行われ、奏効率はIFN-γ単独群:4%に対しPlacebo群:7%であり、さらには予後にも有意な差は認められなかったことが報告され、IFN-γの単独投与は、もはや治療のoptionからも除外せざるをえないのかもしれないことが示唆された。従って現在のIFNによる治療は、IFNαあるいはα,γの併用療法により、最低限長期NCを目指すと言うことになるのであろうか。
各種抗癌剤単剤あるいは併用でもIFN-αの効果を上回るものはなく、IFNとの併用でもIFN-αと同等以上の効果は期待できない。またIFNとの併用等で効果の期待されたインターロイキン-2(IL-2)は、発売の可能性がどうもないようである。
ただし、数多く行われたIFN-αとの併用療法の中で、シメチジンとの併用療法は奏効率41%、投与された全症例の5年生存率が41%(有効例だと74%)生存期間の中央値が28.8ヵ月と非常に良い結果であり(J.Urol.,157,1604,1997)、今後の他施設を含んだ多くの症例での追試が期待される。
下記に参考までに北大腎癌研究会でのIFN投与のregimenを示す。
IFN-α単独:常用量(300-500万単位)を5-7回/週で4週以上、可能なら8週まで5-7回/週を
筋注。以後1-3回/週。
IFN-γ単独:100万JRUを1回/週で6ヵ月以上点滴静注。
IFN-α,γの併用療法:IFN-αの常用量(300-500万単位)を2回/週で筋注、IFN-γは100万
JRUを1回/週を点滴静注で8週間。外来維持投与ではIFN-α,γを各1回/
週で継続。
c) 転移巣に対する外科的治療
北大の症例では外科的に転移巣を完全に切除可能であった症例は、切除出来なかった症例に比較して、当然のことながら予後が有意に良好であった(もちろんrandomized
trialの結果ではない)。
2)転移のない症例
a) 根治手術
北大での根治手術後のpT3までの症例で局所再発する可能性は1%程度である。また腫瘍血栓を有する症例では腫瘍血栓の先進部の位置は関係なく、それがたとえ右心房に達していても、他に転移を有していなければ手術可能であった症例は、手術出来なかった症例に比較して有意に予後が良好であった(丹田ほか、日泌尿会誌、85、996、1994)。
また根治手術の到達法の違いによる予後の差は、腰部斜切開によるsimple Nephrectomyと経腹的なradical
Nephrectomyでは、諸家の報告によると経腹的なradical Nephrectomyの方が
5年生存率にして5〜10%良好な様であるが、有意な差ではないと思われる。
b) 腎部分切除術
imperative caseは特に議論の余地がなく、問題はelective caseである。Novicらが腎保存手術に関する諸家のデータ700例(自らのデータ100例を含む)の検討では、これらの症例の局所再発率は殆どが10%以下と報告されている(J.Urol.,149,1,1993)。しかしこれまでの報告では、main
tumorから離れて存在するsatelite tumorは、main tumorの大きさに関係なく30-40%とかなりの高頻度に存在することが知られている。これはelective
caseを考えた時きわめて大きな問題である。しかしそれにもかかわらず、これらの症例のfollow
up期間より考えると、5-10年たっても再発率が10%以下であるという事実は、satelite
tumorの大部分は取り残されても殆どが10年は悪さをしないことを示しているに他ならない。従ってelective
caseの場合、15年以上の長期の予後が期待される若年者の適応にむしろ問題があるのかもしれない。そしてelective
caseとする条件は、腎癌研究会等現在学会全体で議論の最中である。
c) 再発予防としてのIFN投与
これまでいくつかのrandomized trialが行われ、北大腎癌研究会でも同様にtrialが行われたが、IFN-α及びγにも再発予防効果は認められていない。IFNの有効率が15%程度であることを考えると、妥当な結果であろう。
4 予後因子
腎癌は、発見の契機より偶発腎癌と非偶発腎癌に大別する事が可能で、前者は後者に比較して有意に予後がよく、予後因子についても腎癌全体、偶発腎癌、非偶発腎癌の3つの場合に分けて論ずる必要がある。以下に各予後因子が上記の3つの場合に予後因子であるかどうかを表で示した。
腎癌全体 偶発腎癌 非偶発腎癌
日泌分類(Grade,Stage等) ○ ○ ○
DNA ploidy ○ X ○
腫瘍径 ○ ○ X
○:有意な予後因子であるもの X:予後因子とならないもの
従って日泌の病理組織学的諸因子はどんな腎癌の場合でも予後因子として考えてさしつかえないが、DNA
ploidyや腫瘍径は腎癌全体では確かに有意な予後因子であるが、偶発、非偶発腎癌と分けて考えた場合には予後因子とならない場合があるので注意が必要である。
またDNA ploidyに関しては、DNA aneuploid症例はいわゆるrapid growingを示し、5年以内に死亡するものが多く5年以降に死亡することが少ないのに対し、DNA
diploid症例はslow growingを示し、5年以内に死亡するものは少ないが5年を過ぎても死亡するものがかなりあり、最終的には15年生存率はほぼ同じである。
腫瘍径は、北大症例で偶発腎癌で5.7cm、非偶発腎癌で8.1cmと偶発腎癌が有意に小さかった(p<0.001、全腎癌:7.1cm)。