前立腺がん検診のお勧め
前立腺とは?
前立腺は男性特有の器官で膀胱の下、骨盤のいちばん底に位置しており、尿の通り道であるとともに男性の生殖器官として精液中の液体成分を作ったり射精したりする機能にかかわっています。膀胱を出た尿は前立腺の中を通って尿道から排出されるため、中高年になると前立腺の疾患のために尿の通り道がふさがって排尿の障害をおこす男性が多くみられます。これに対し女性は前立腺は無く尿道が短いためこのような尿道の閉塞による排尿障害がおきることは少なく、むしろ中高年になると骨盤底や括約筋がゆるむために腹圧性尿失禁などの症状がおきやすいのです。
女性に対する成人病検診としては子宮癌検診や乳癌検診がすでに広く行われていますが、男性特有の成人病である前立腺疾患に対する社会的な取り組みはまだ立ち遅れているのが現状です。最近増加傾向が指摘されている前立腺癌や前立腺肥大症などを早期に診断し適切な治療法を検討するのが前立腺検診の目的です。
前立腺肥大症
青壮年期には前立腺の大きさはクルミの実程度ですが、40〜50歳を過ぎる頃から増大する傾向が見られ、ある程度以上に大きくなると膀胱から尿が排出される経路がふさがれて排尿困難などの症状を呈するのが前立腺肥大症で、その大きさは鶏卵大以上になることがあります。尿の流出路の閉塞により尿の出方が細くなるだけでなく、膀胱の筋肉が不安定になって尿が近くなったり、尿意が切迫して我慢できなくなったり(急迫性尿失禁)するほか、進行すると残尿が生じさらに細菌感染や腎臓機能障害をおこすことになります。
50歳頃から始まり70歳を超えると程度の差はあれ半分くらいの人がなるといわれ、熟年男性の宿命ともいえるものですが、良性の病気ですので症状の程度や患者さん自身の希望をふまえて治療の方法を選択することになります。なお前立腺肥大症が前立腺がんに進展することはありませんが、両者が偶然に合併することはありますので注意が必要です。
治療法としては、最近は良い治療薬が数多く開発されており、軽度〜中等度のものには薬物療法が効果的です。また中等度以上に進行した場合や薬で症状が改善しない場合は手術を行いますが、前立腺肥大症の手術はお腹を切らずに内視鏡を用いて前立腺を削り取る「経尿道的手術」が広く行われています。入院期間は2〜3週間程度です。また高齢や持病のため手術ができない人には、体内埋め込みカテーテルなどの治療法もあります。このほか最近はレーザー手術や高周波による温熱療法なども研究されていますが、次に述べるがんとの鑑別を厳密に行う立場からはこれらの治療法は適応を慎重に選ぶ必要があります。
前立腺がん
アメリカでは前立腺がんが男性のがん患者数の第1位を占めており、年間約12万2千人が前立腺がんと診断され(1991年)、年間3万人以上が亡くなっていると言われています。これに対し日本では前立腺がんによる年間死亡数は約4千人で、アメリカと日本の人口比(アメリカ2億5千万人、日本1億2千万人)を考慮しても明らかに発生率に地域差のある病気といわれてきました。この原因としてハワイに移住した日系人の発生数はその中間であることから、人種差による遺伝的要因と食事など環境要因の両方が関係しているようです。そかしこのように日本人には少ないと言われてきた前立腺がんが、生活様式や食生活の欧米化のためか、日本でも最近数年間で倍増する勢いで増加しています。
前立腺がんの症状としては排尿障害や血尿をきたすことが多いようですが、実際には初期には無症状の場合も多く早期発見は困難と言われてきました。しかし最近前立腺特異抗原(PSA)という鋭敏な腫瘍マーカーが開発され、血液検査によって早期診断の可能性が格段に向上しました。検診では肛門から指で診察する直腸指診と血液検査の組み合わせでスクリーニングを行い、がんの疑いがある場合には超音波断層撮影を行います。診断の確定には針生検が必要で、針で小さい組織を前立腺から採取し、病理学的検査でがんの有無、悪性の度合いなどを検討することになります。
治療の方針は、まず転移のない比較的若い患者さん(70歳以下)には根治手術(前立腺全摘術)を行って完治をめざします。また放射線療法もかなり有効で根治手術にほぼ匹敵する治療効果も期待できますので、年齢や副作用なども考慮し、各々の長所・短所を十分理解して頂いたうえで治療法を選択します。
一方前立腺は男性の生殖器官のため前立腺がんも男性ホルモンに依存することが特徴で、精巣を摘除したり男性ホルモンを遮断する薬剤を用いて内分泌療法を行うとがんは著明に縮小します。このためたとえ転移のある進行がんでも内分泌療法が非常によく効くので内分泌療法を中心に様々な治療法を組み合わせることにより良い効果が得られるのです。一方非常に早期の微小がんはむしろ無治療で経過観察とすることもあります。最近はこのように進行度や年齢などによりきめ細かに治療法を使い分けるようになったほか、内分泌療法の副作用も問題でしたが、精巣を取らずにすみ、かつ副作用の少ない新薬が最近保険適応となりました。さらに内分泌療法が効かなくなった場合の治療法も最近は様々な試みが成果をあげつつあります。