骨肉腫Q&A

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はじめに

 骨肉腫という病気はけっして多い病気ではありません。しかし、子供の悪性腫瘍のなかでは白血病の次にみられる病気です。本やテレビドラマでとりあげられることが多いのも、この若い人に多いためでしょう。そこで、骨肉腫という名前は聞いたことのある人が多いと思いますが、実際にどのような病気なのかイメージがわかないということがあると思います。また、骨肉腫の治療はこの10年間で大きく変わってきています。一般のお医者さんでも、古いイメージでみている人がおり、実情とあわない部分がたくさんあります。現在の骨肉腫の治療は長期間の化学療法が中心になっており、本人、家族の皆さんの理解と協力が欠かせません。そこで、骨肉腫という病気とその治療の正しい知識を知っていただくため、いままで家族の方から出てきたいろんな疑問をまとめてみました。説明に舌足らずの所がありましたり、他に疑問に思うことがありましたら遠慮なくお聞かせ下さい。
 なお、ここで述べる治療法などについては国立札幌病院の現状で説明しております。広く受け入れられている標準的なものが中心ですが、全国的にはより先進的あるいは実験的な治療を行っている施設もあります。これらについては、結果が確定していないものもあり、ここでは触れておりません。

1997年6月

北海道がんセンター整形外科

TEL 011-811-9111 Fax 011-811-9159

e-mail isu@sap-cc.go.jp


骨肉腫と癌は違うのか

●腫瘍とはなにか

 人間の体は、いろいろな形や働きのたくさんの細胞からできています。皮膚でも骨でも内臓でも、それぞれにきまった細胞があります。しかも、毎日、古くなった細胞は死んでいき、新しい細胞といれかわっていきます。新しい細胞は、正確な設計図(遺伝子)により決まった形で決まった働きをするように作られ、そのため人間の体は一見して変化のないようにみえます。このしくみがおかしくなり、周囲と調和しない異常な細胞がどんどん作られ、かたまりになってくるのが腫瘍です。

●良性と悪性の違いは

 腫瘍はそのできた場所で大きくなる他に、血液やリンパの流れにのって離れた場所に広がることがあります。ちょうど火事の時に火の粉が風にのって飛散り広がるようなもので、これを転移と言います。簡単にいえば、悪性腫瘍とは転移する可能性のある腫瘍のことです。良性と悪性の区別は困難な時もありますが、顕微鏡で腫瘍組織をみる方法が一番確実です。なお、悪性腫瘍のうち皮膚や粘膜からでたものを癌といい、骨や筋肉、神経などからでたものを肉腫といいます。

●骨肉腫とは

 骨からでる肉腫のうちで骨を作るものを骨肉腫といいます。骨からでる肉腫には、骨肉腫のほかに軟骨肉腫、ユーイング肉腫などがあり、それぞれ、広がりかた、大きくなるスピード、治療に対する反応などが違っています。骨肉腫と癌も悪性腫瘍という意味では同じですが、それぞれ特徴があり、薬に対する反応でも違ってきます。


骨肉腫とはどんな病気か

●原因はなにか、遺伝するのか

 原因はわからないというのが正直なところです。遺伝は認められていません。親子、兄弟での発生も世界的にもほとんどありません。食物、ビールス、生活習慣等との関係も見つかっていません。

●どんな人のどんな場所に多いか

 10台前半に一番多く、男が女の約1.5倍多い病気です。7ー8割は膝のまわりにでき、残りはほとんどが肩(上腕骨近位)です。病気としては少なく、北海道で1年に10人程度の患者さんが新しく骨肉腫になると考えられます。

●症状は

 ほとんどが痛みだけです。骨肉腫ができただけでは痛みなく、大きくなって骨を破壊してくるための痛みと考えられます。医師を受診した時には、骨が破壊され一部外に張り出しているのが普通です。このようなときには、その場所が腫れて熱感があります。骨がもろくなるため骨折をおこして発見されることもあります。
 しかし、これらの症状は、骨肉腫に特徴的なものではなく他の病気でも見られることがあります。

●診断はどうするのか

 レントゲン写真でかなりわかります。しかし、レントゲン写真は影をみているようなもので確実とはいえません。最終的には、病気の場所を一部とり、顕微鏡でみる必要があります(病理組織学的診断)。病気の広がりをみるためには、CT、MRI、シンチ、血管造影などを必要に応じておこないます。

●どのように進んでいくのか

 治療をしない場合、骨肉腫は局所でどんどん大きくなり骨を壊し、まわりの筋肉をおしひろげていきます。スピードは早く2ー4週間で倍の大きさになることもあるとされています。転移は肺に多く、その他に骨、肝臓、リンパ節などにみられることもあります。転移の多くは2年以内にでてきます。5年以後はまずありません。

●治療は何をするのか

 悪性腫瘍の治療に現在3つの方法があります。手術、化学療法、放射線です。腫瘍の種類により、このうち、1つだけでよいものもありますし、組合せて使う必要のあることもあります。骨肉腫の治療としては手術と化学療法の組合せが行なわれています。

●治療でなおるのか

 骨肉腫に侵された骨はとる必要があります。手術をしないでなおす方法はありません。詳しくは手術のところで説明します。しかし、手術だけでは、いくらきちんととっても転移をおこすことが多く、なおったことにはなりません。転移は後からでてくる可能性もあるため、もう完全になおって将来とも転移をおこさないのかどうかをあらかじめ判定することはできません。しかし、時間がたつにつれ転移のでる可能性が少なくなることは確かです。そこで、5年たっても転移の無い場合に一応なおったと考えます。手術だけをおこなっていた時代には、取り残しのない手術をしても、約10〜20%の5年生存率でした。化学療法を一緒におこなう現在の方法では、約60〜70%です。残念ですが、どのような人がなおるかあらかじめ判定することはできません。そこで、治療終了後も定期的にレントゲンをとることが必要となります。


手術について

●切断しなければならないのか

 骨肉腫の手術は腫瘍に侵された部分を全部とる必要があります。しかし、骨肉腫の細胞はかたまりを作っているところだけではなく、目に見えなくともその周りにちらばっていることがあります。そこで、これを取残すと手術後しばらくたってからまたかたまりを作ってきます(局所再発)。そこで、肉眼では正常にみえるところまでつけてとる必要があります。具体的には、腫瘍のある骨とまわりの筋肉を一緒にとります。ところが、骨の近くには血管や神経が走っていることがあります。手や足につながる血管は数が少なく、これをとってしまうとその先に血が流れず死んでしまいます。つまり、骨の外への広がりが大きい場合や、血管を残せない場合には、止むをえず切断をすることもあります。しかし、逆にいうとあまり骨の外に広がっていない場合には切断しなくともよいわけです。これを患肢温存手術といいます。切断か患肢温存かはおもに骨肉腫の広がりで決まりますが、その他に化学療法のききめ、年令、部位も考える必要があります。

●切断をしない時どのような手術が必要か

 患肢温存手術の場合、腫瘍をとった後を何かで埋める必要があります。これを再建といいますが、方法は、大きくわけて人工物を使う時と自分の骨で埋める場合と2つあります。それぞれの長所、短所は次のとうりです。
人工物(人工関節、人工骨頭) 自分の骨(骨移植)

長所

・手術後、早くから動かせる ・耐久性がある

短所

・摩耗、破損が必ずある
・筋力がないと不安定になる
・手術が大きくなる
・骨がつくまで時間がかかる
・関節は固定される

 特に人工関節の破損の問題は重要で、入替えができない時には切断しなければなりません。私たちは、若い人の場合には可能な限り骨移植の方がいいと考えています。最終的には、患者さんの希望を優先いたします。

●切断した場合どうするのか

 義足をつけることになります。一番多い膝の上での大腿切断の場合、ソケットというプラスチック製の筒のようなものを残った大腿の形にあわせて作ります。形がぴったりあっているとちょうど吸いつくようなかたちになり、バンドなどで上から吊り下げなくともよくなります。現在使われている義足は骨格式といってパイプ、継手などで組み立てます。修理、調節が簡単という利点があり、上にフォームラバーをかぶせますので外見もよくなっています。義足では杖なしで歩くのが原則で、高齢者を除きほとんどの人が可能になります。あぐらも可能です。また、下腿での切断の時は、膝関節が残るので義足を付けてもかなりの運動が可能となります。自転車にのったり野球を楽しんでいる人もいます。義足は使うために1ー3ヶ月の練習が必要ですが、化学療法中は休むためなかなか上達しないのが悩みです。化学療法終了後に改めてリハビリテーションをおこなうこともあります。

●Rotation Plasty(回旋形成術)について

 切断が必要なときにもうひとつの選択肢があります。先ほど述べたように、切断が必要になるのは、血管や神経を切除しなければならないからです。病巣より先の部分は血行がいかないので死んでしまうわけで、手術の時点では健康です。そこで、病巣部分をとって、その先の部分を血管を縫合せるなどの方法で助けることができます。もちろん、長さが短くなりますからそのままでは使える状態にはなりません。膝に病巣がある場合ですと、足の部分を前後反対にして残った大腿につける形になります。こうすることで足の関節がなくなった膝の代わりになります。装具は必要となります。動き、歩行能力、耐久性などは普通の切断はもちろん、人工関節、関節固定術よりも優れています。外観の問題があり、ビデオなども用意してありますので御相談ください。

●手術時間、麻酔方法、輸血など

 切断は約1時間で輸血もまず必要ありません。患肢温存の場合は、大きさやひろがりにもよりますが、腫瘍をとるだけでだいたい2〜3時間かかります。それに加えて再建術、時には皮膚移植なども必要なことがあります。麻酔は全身麻酔でおこないます。輸血は1000mlの出血まではしないことが多いのですが、子供や貧血のある人は早目に輸血することがあります。下肢の手術の時には、痛み止めのため背中に管が入っていることがあります。


化学療法について

●化学療法はなぜするのか

 骨肉腫は多くが四肢にできる病気で、最悪でも切断をすれば完全にとることができます。この点が進行するととれなくなる胃癌や肺癌と違います。しかし、昔、切断だけをしていた時代の経験では、ほとんどの人が1年以内に肺転移をおこしました。切断すれば腫瘍はそこにはなくなるわけですから、切断後に肺転移をおこすというのは理屈にあいません。そこで、切断をした時には検査ではわからない小さな転移がすでにあり、それがやがて大きくなってきてみつかるのだと考えるようになりました。現在の化学療法の主な目的はこの目に見えない肺転移を抑えることです。

●化学療法はどのようにするのか

 化学療法は腫瘍が小さいほど効きます。骨肉腫の治療で一番大事なのは、まだ検査でみつからないほど小さな時期から化学療法を始めて、肺転移を抑えることです。具体的な薬の選択、使う時期にはいろいろな方法がありますが、現在私たちの使っているのは全国のいくつかの大学やがんセンタ−で共同して決めたものです。北海道では北大、札幌医大も同じ方法で行なっています。ポイントは手術の前から化学療法を充分にすることにあります。肺転移をなるべく小さな時期からおさえること、手術の前に腫瘍を小さくしたり、まわりの小さなばらまきを減らして切断しなくてもすむ人を増やすようにするのが目的です。

●化学療法に使う薬と注意点は

 現在使っている薬はいづれも副作用を持っています。薬が腫瘍細胞と一緒に正常の細胞もやっつけるためで、副作用の無い薬は効果も無いといってもいいぐらい宿命的なものです。しかし、いろいろな注意で副作用を少なくしたり、より重大な副作用に進行するのを防ぐことができます。以下の薬に共通するのは、吐き気、食欲不振です。個人差がありますが、可能なかぎり水分だけでもとるようにして下さい。吐き気が強くて飲めない時は点滴で水分を補給する必要があります。

アドリアマイシン(ADM):赤い薬で静脈注射をします。白血球が1週から2週後に減少します。脱毛がほとんどすべての人に2〜3週でみられます。まれに心臓に影響して脈が不規則になることがあります。白血球は細菌を殺す働きをもっているのでこれが少なくなると、熱がでたり肺炎などを起こすことがあります。髪の毛は化学療法が終るとまたはえてきて完全に元通りになります。心臓の副作用(不正脈)はあったとしても一時的なことが多いです。

メソトレキセート(MTX):黄色い点滴で4時間で終了します。24時間後から薬の中和剤を使って副作用を防止します。体の中に入った薬は尿に溶けて出ていきます。もし尿の量が少ないと、薬が体の中にたまって副作用が強くなったり、ひどいときには腎臓の障害をおこすことがあります。1日で最低2000mlできれば3000mlの尿量が必要です。他に、口内炎、皮膚の発疹ができることがあります。

シスプラチン(CDDP):アドリアマイシンと一緒に使います。4時間の点滴でおこないます。嘔吐をおこす副作用がありますが、これを防ぐ薬が最近開発されました。腎障害をおこすことがあるため、尿量を1日3000ml以上確保する必要があり、薬を使う前後に水分補給のための点滴と利尿剤(尿を出す薬)を使います。治療は1日ですが尿量を多くするためと、嘔吐があって水分を補給する必要があるときは、その後数日間、水分の点滴を続けることがあります。嘔吐が強い時には、それを抑えるためいろいろな薬を追加することもあります。

イホマイド(IFM):7日間続けて点滴で投与します。薬の刺激で血尿を起こすことがあるので、やはり尿の量を増やすため点滴と利尿剤が必要です。最近、副作用を防ぐ薬が使えるようになったため、血尿を起こすことはまずなくなりました。他に脱毛もみられ白血球が減ることもあります。

●治療のスケジュールは

一応別紙のように決めていますが、副作用や全身状態などをみながら決めていきます。個人ごとに効果のある薬剤が違うことがあるため、効果の不十分な薬を無駄に使わないよう手術前に1回、手術後に1回、効果の判定をおこない使う薬を変更することがあります。


その他の疑問

●保険の効かないいい薬はあるか

 普通、治療は健康保険を使っておこなわれます。新しい薬が開発されたとき、保険で使えるようになるまで時間がかかることは事実です。これは、その薬が本当に効くのかを確かめるのに時間がかかるからです。我々の病院では、多くの場合臨床試験というかたちで手に入れることができ、骨肉腫に対して効く可能性が高いと思った時には、保険で使える前から使ってきました。現在使っている薬に関しても、少なくとも日本では最初から使っている施設の一つでした。

●新聞、週刊誌で騒がれる特効薬はほんとうに効くのか

 これらの多くは学会で発表されたものですから、効く可能性のあることは確かです。しかし、それは効いた例があったという段階で、ひどいのは動物実験か試験管内の段階です。夢の薬ともてはやされて登場しそのまま消えてしまったものも沢山あります。腫瘍よりも株価に効くことが多いという冗談とも本気ともつかない話があるくらいです。現在のところ、特効薬がひとつみつかって腫瘍の治療が一気に解決するということはなく、少しづつ改善された治療を積み重ねていくしかないように思われます。

●丸山ワクチンは効くのか

 骨肉腫に関していえば効かないと考えます。ここでいう効くという意味は、腫瘍が小さくなるという意味で痛みが減ったとか食欲がでたというだけでは不十分です。現在使っている薬はすべて、骨肉腫に使って腫瘍が小さくなることが確かめられているものです。今までの経験で、丸山ワクチンが骨肉腫に効いた例が無かったのは確かです。なお、以下の薬または治療法はあえて言わせてもらえば、いかがわしいものです。

 蓮見ワクチン、佐藤リンパ球療法、ゲルマニウム、クロレラ、ヤング療法、
 ビタミンC療法、神様の水など

●本人にはどこまで言えばいいのか

 一概にいうのは難しい問題ですが、何も言わずに治療をするのはまずいと思います。手術では患肢温存をしても正常というわけにはいきません。化学療法も副作用があります。
 本人がなぜここでがんばらなければならないかを理解していなければ、治療への意欲がでないのではないでしょうか。骨肉腫ではありませんが、治療への意欲によって成績が違ってくるというデータもあります。しかし、性格、年令などでどこまで言うかは変わってくるのは当然です。直接、主治医にご相談下さい。